いっき終止形 〜諸行無常の一音 〜

邦楽器である尺八の世界には「一音(いっとん)成仏」という言葉があります。これはたった一音だけで悟りを開くことができるという音のことで、尺八という楽器の表現力の広さを表していると思います。
私は尺八という楽器を触ったことがなく、一本欲しいとは思っているのですがなかなか機会が無く、自分で吹いてあれこれ試すことができません。そして困ったことにいくら尺八の音楽を聴いても、そんな恐ろしい音は見当たらず、言葉は知っていても感覚的に理解できないものがありました。

ところがある日「いっき」をプレイしていて、足軽の鉄砲隊に狙撃されゲームオーバーになった時「これだっ」と膝を打ちました。
何百回、何千回となく聴いた「死亡」のテーマ曲。そして最後のひとりが討たれた場合は続いて「ゲームオーバー」の曲。曲というにはあまりにも短い音。しかしそれはたった一音ですべてを表していました。
これこそ諸行無常の音。この『いっき』の主人公「権べ」と「田吾」は鎌を手裏剣のように投げ忍者を殺戮し、ボーナスステージではお地蔵さまが放り投げるおにぎりをあられもなく一心不乱に拾い、その理由はと考えると単なる手前の小判を集めのため、という煩悩の塊のような男です。メインテーマの軽快なリズムと笛の音に相まって自分の欲に踊らされ、この世の春を謳歌していてもいつかはやってくる無常の世界。ゲームでは「死亡」という最も極端な例をとり、この音を聴かされた後ではステージクリアの豪快な高笑いに無常を感じずにはいられません。アーケード版『いっき』では、この音と共に画面に「終」という文字が現れ虚無感が倍増しています。
とりあえず、これを「いっき終止形(カデンツ)」ということにして話を進めます。

残念ながら、この音を今までのようにここに貼り付けることはできません。お気楽に録音して公開するにはあまりにも重要な音だからです。ページ一番下に不本意ながら五線譜に書きとった音を発表するにとどめます。

ここ日本には「いっき終止形」のようなものが古くから重要な音として存在します。
音をひとつ鳴らして、一度発せられた音に何も手を加えず、音が消えるまでその余韻を味わう種類のものです。
身近なものとしてはお寺の鐘が挙げられます。大みそかには各地で108回にも及ぶこの鐘の音が聴かれるでしょうが、この鐘はドラムのフィルインのように連打せず一音一音その余韻が消えるまで耳を澄まします。
仏壇にはリンが置いてあり、私は子供の頃バチで風鈴が鳴るような感じで連打していたところ、祖母に本気で叱られました。やはりこの楽器も連打するものではないようです。
「いっき終止形」はひょっとしてこの仏壇のリンという鐘の音をイメージしているかもしれません。
「死亡」してチーンと鐘が鳴る…あまりにも分かりやすくてギャグとしてはいいのですが、音が高いしちょっと軽すぎます。似たようなものとして、イーアルカンフーの跳び蹴りでおなじみの銅鑼(ドラ)がありますが、これだと逆に派手すぎますし余韻も短いです。
有無を言わせぬ存在感のある音、という意味ではやはり太い音、すなわち低音が相応しいと思います。

以上は「一音成仏」を私なりに解釈したもので、本来の意味とはだいぶかけ離れてしまったかもしれません。そもそも尺八は笛です。しかし例に挙げた楽器はすべて打楽器なので、はじめからつまずいているような気もします。減退する余韻の長い音という視点で見れば、弦楽器でも代用が可能かも知れません。
ここはぜひともファミコン尺八奏者が現れて『いっき』で「一音成仏」を表現してくれるのを楽しみに待つことにします。

以下は私の希望というか願望というか、まあ夢なのですが、お寺を貸し切りで「いっき祭」を開催したいです。
腰元を振り払い、鉄砲隊をかわし、複雑なリズムパターンを延々ループし、数時間にも及ぶぶっ続けで「いっき」を演奏します。演奏楽器は問わず人数は多ければ多いほど理想です。まあ途中でボーナスステージを挟んでもいいのですが、とにかくファミコンなのでいつまでたっても終わりません。やがて肉体も精神も疲弊し切った所で、最後に寺の僧侶が撞木で梵鐘を鳴らし宴は終了です。もちろんこの僧侶もファミっ子です。
無限ループの生き地獄から解放させるその音が響き渡り、人々は演奏の手を止め、いつまでその余韻に耳を傾けることでしょう。

さて、その後はというと…。
これはやってからのお楽しみです。


※『いっき』『スペランカー』を同時に演奏というとんでもないMIDIデータを作った人がいました。
「一緒に演奏する」という着想がすごいです。これはMIDIデータですが生演奏においても可能なはずで、ライブでファミっ子たちと2つの異なるゲームで対戦したいです。

●「THE GREAT MINOR GAME MUSIC MIDI MEDLEY 〜レトロゲームの忘れ物〜」より抜粋

【制作者】平野ユウ(『SSS通信』http://www.wind.sannet.ne.jp/thsss)

いっきの所だけ書き出したら演奏がぐちゃぐちゃになってしまいました。
完全版は11分もの大作でテンポも倍の速さです。



●ファミコンミュージック理論●
・この終止形(カデンツ)は「死亡」の後に速やかに行うこととする。
・この音が鳴ったら最後、音の余韻に耳を傾け消え入るまでいかなる音も発してはならない。
 ※サンプルとして「いっき」の例を以下に書き記す。

  

・上記の事項が守られている限り音程は自由に変化させてよいものとする。



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